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2015年4月26日日曜日

「渋谷の今後」を巡って

宮下国賠勝利集会で、時間が十全に取ることが出来なかった小川てつオ氏の発言を補足をしていただいて掲載いたします。


渋谷の今後を「公共的価値」と「経済的価値」の対立で考えていきたいと思います。公共的価値というのは、一人一人を尊重しそれらの人たちが共に生きていく場を大切にする価値観です。経済的価値というのは、賃労働によって社会に参加しそこでの競争を通して個人の幸福が実現されるという一元的な価値観です。新自由主義の中で現在猛威をふるっている考え方は後者です。

今後を考える上で1、渋谷区長選 2、新宮下公園 3、渋谷駅周辺再開発 4、2020東京オリンピックを考えていきます。

1、渋谷区長選
有力候補は、長谷部健・村上英子・矢部はじめ、です。一人一人見てみましょう。
まず、長谷部健は、宮下公園のナイキ化を区長に提案した張本人です。そして、桑原区長の後継者です。この人の口癖は「WIN・WIN」。宮下公園だったら、公園は無料で整備できて渋谷区もうれしいし、ナイキも宣伝ができてうれしいし、スポーツ公園になって利用者もうれしい、もうWINWINですね。という感じです。典型的な新自由主義者です。こういう人の問題は、発想が経済的価値にあるから、そこから漏れる人たちのことを本当には分からないことです。全然、WINではない人たちのことが分かってません。
長谷部は、元は博報堂社員です。その後、グリーンバードというNPOを立ち上げ(現在も活動中)、その後に渋谷区区議です。会社員・NPO・政治家といろいろやっているように見えますが、そうではなくて、この人の基本は博報堂です。要は、広告代理店(的発想)です。どうすれば、アピールして何か(商品、名声、など)を売ることが出来るかで考えています。グリーンバードは、公道などのゴミ拾いをするNPOです。参加者はボランティアだからお金を貰っていません。一見、公共的価値に基づいているように見えます。しかし、<きれいー汚い>を判断することは経済的な価値に基づいているのではないか、と疑う必要があります。野宿者が汚い汚す、などの理由で排除される時、経済的価値に基づいていることが多いのです。アートやスポーツや美観や安全など、公共的価値を持ち出しながら、実は経済的な価値に基づいていることが多いので、きちんと見極めることが大切だと思います。たとえば、オリンピックなどがその最たる例です。この長谷部健が提唱し、最近話題になったのが同性パートナーシップ条例(正式名称:渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例)です。LGBTの人が生活しやすくするという謡い文句です。しかし、目的の1つに経済の活性化が見え隠れします(注1)。そのような視点では必ず漏れる人がいます。たとえば、障害者や野宿者を「自立」させて経済活動の一翼に参画させる。そのことに価値をおく時、そもそもそのような価値の中で苦しんできたということが覆いかくされてしまいます。新自由主義者の特徴は、従来の保守よりも単純に経済一辺倒で大丈夫だと思っていることです。
次に、村上英子。自民党都議で都議会でオリンピック・パラリンピック推進対策特別委員会副委員長をやっています。2003年に都議に初出馬した時のコピーが「小倉基 渋谷前区長 長女」。なんだそりゃ。という感じですが、それが有効であるという典型的な「地域利益誘導型」「村政治」の自民党議員です。こういう人は、節操はなく町会・商店会の利益を優先(保守)するので経済優先だけでもおそらくないでしょう。盤石な自民基盤でかなり有利だと思います。
次に、矢部はじめ。3回連続で区長選で落選していますが、今回は推薦が民主や維新の会、応援が共産という普通ではありえない布陣です。共産が独自候補を立てず応援に回ったことで、区長選は面白くなりました。渋谷では共産区議は6議席あり第2党です。この人は、父親が地元の建設業で、やはり「地域利益誘導型」「村政治」型には変わりないと思います。ただ、桑原独裁区政よりも話し合いやプロセスを大切にする姿勢は伺われます。
この3者の誰が区長になるかが今後の渋谷に影響してくると思います。しかし、大筋のレールは引かれており変わらないはずです。

2、新宮下公園

新宮下公園の計画は、今議会では継続審議、事実上の廃案になりました。全会派一致の決定というのは、珍しいことです。こんなことは20数年の渋谷区議生活で初めて、と古参議員はおっしゃっていました。しかし、今年6月の第二回議会に計画が再提出される予定です。
プロポーザルの公募で選ばれた三井不動産の新宮下公園案は驚くべき内容でした。3階建ての商業施設の屋上を公園にし、公園面積の1割程度を使って17階建てのホテルをつくる。ホテル建設については法令においても全くの想定外です。明らかな都市公園法違反です。
都市公園法の中で立体都市公園が定められたのは平成16年です(注2)。だから、現状の宮下公園も1Fに駐車場を作る改造を行った1966年から立体的な公園であるのですが、法律より前に出来ているので法律上の<立体都市公園>にはなっていません。しかし、ナイキによって改造された2011年のリニューアル時に<立体都市公園>を適用しなかったのは法的不備の可能性もあると思います。適用しなかったのは、現在の駐車場部分にある公園を支える柱の耐震性の問題のためだったのではないでしょうか?
ともあれ、「都市公園の下部空間に都市公園法の制限が及ばないことを可能とし、当該空間の利用の柔軟化を図る」(都市公園運用指針 国交省)という立体都市公園制度にしても、上空利用などは想定していません。公園に柱を立ててホテルを宙に浮かせ、上空に都市公園法の及ばない制限を設けるというウルトラCの計画などが認められるわけがありません。しかも、それを国交省などに打診することなく計画案として採用して公開し、議会の承認を得ようとすること自体が相当に強引な力が働いているとしか思えません。
仮に、上空に法的制限が及ばないことが認められたら、公園敷地全体に高層ビルを建てることが出来ることになります。その1フロアを公園にすればいいわけです。そもそも立体都市公園は、基本的には、土地の少ない都市に新規に公園を整備する場合の法律であり、既存の公園に適用する場合「都市公園の機能・効用が低下するような場合には、立体都市公園制度を適用することは望ましくない」(運用指針))とされています。が、この上空制限を認めることは低下どころではなく、公園の破壊の大きな突破口になってしまいます。莫大な利権が生まれる一方で、ビルの中に公園があった方が管理しやすくて安心安全です、と言いだしかねません。これは断固止めないといけない。
で、このプロポーザルを提案したもう1社は東急。ぼくは、この計画は東急のために(東急によって、というか)作られたものだと思っていたので、当然(というか癒着ですが)東急が採用される出来レースだと思っていました。東急の提案は(アツミさんの情報公開資料によると)、既存の宮下公園の躯体を残したものだったことが分かります。ということは、東急案は建て直しではなく大きく現状から変わらない案だったことになります。これは当然です。なぜならば、東急としてみれば、現在開発中(今後、6つも超高層ビルを建てる)渋谷駅周辺と宮下公園、明治通りを挟んだ東急本社、同じく明治通りを挟んだデザイナーズ・プラットフォーム(元都営宮下町アパート跡地に東急が作る高級マンション)をデッキで結ぶことが出来れば、それでいいからです。つまり、三井不動産のように宮下公園内でペイしなくても、総合計画の中でペイできれば良く、そのためには宮下公園にお金をかけるリスクを犯す必要はありません。宮下公園は、東急にとって駅からつながるデッキ(通路)の一部(プラス公園という付加価値)であればいいわけです。
この計画が「宮下公園整備」ではなく「宮下公園等整備」であった理由はデッキ整備にこそあったはずです。官僚の作文の中では「等」の使い方が肝です。それなのに、三井不動産が採用されるという事態がなぜ起きたのでしょうか。桑原が率先して行った新庁舎の整備が三井不動産であるいうことに答えがあるとしか思えません。耐震性に問題があるとされた区庁舎が耐震補強ではなく新築になった経緯にも、相当なうさんくささがあります。補強か新築かを検討する委員会が結論を出す前に、区長が新築を発表したこともありました。区長の肝入りで進んだ計画だったことは明らかです。耐震補強の話がいつの間にか企業との提携すること(PPP事業)になっている、という流れは区庁舎も宮下公園も同様です。桑原区長と三井不動産には密接な関係があるとしか思えません。そして、宮下公園の三井案は自民党も公明党も反対しました。選挙で桑原区長は長谷部健を公認として推薦し、自民は前区長の娘の村上英子です。つまり、この計画の背後には、区長選を睨んでの政治家たちの勢力争いが絡んでいることが容易に推測されるわけです。

3、渋谷駅周辺開発

渋谷100年の計(もう聞きあきましたが)と言われている、駅周辺を中心とする再開発が怒濤の勢いで行われています。渋谷駅を降りられた方は、八チ公口からモヤイ像付近を除く駅周辺のほとんどが工事中であることに驚くと思います。白い工事用の壁で覆われた渋谷は、ほとんど包帯ぐるぐる巻きのミイラ状態です。こんな状態が今後10年くらい続くことになります。そして、これらの事業を主導(というか独占)しているのが東急グループです。
東急は、電車と宅地開発のセットで業績を伸ばしてきた会社です。つまり、土地をたくさん持っています。三井不動産も日本で5番目に土地を保有している会社(注3)です。土地を持っている人同士の覇権争いが続いているわけです。その一方で、土地を持っている奴が最後に笑う、ということ自体と野宿者や貧困(賃貸)者たちは闘っていると言ってもいいと思います。すごく大きな敵が姿を表しているわけです。
さて、今回の渋谷再開発が排除したいと思っているのは何でしょうか。もちろん野宿者やその支援活動です。ただ、それだけではないと思います。現在、まだ、くすぶっていて火の手が上がっているわけではないと思いますが、のんべえ横町やシブチカ(渋谷地下商店街)、ではないかと思います。
歴史を遡ってみると、この2つは敗戦直後の闇市にルーツがあります。闇市が排除される中で、当事者が東京都と交渉した結果、飲食系露天商の代替地としてのんべえ横町、それ以外の露天商の代替地としてシブチカ(1957年)が作られました。ちなみに、シブチカが作られた時、東急にだまさたという経緯もあります(注4)。駅構内、駅前のそれぞれ一等地にあるシブチカ、のんべえ横町をこのままにしておくわけがありません。のんべえ横町は駅から宮下公園までのデッキをつくる計画の中で排除を受ける可能性が高いはずです。また、シブチカは駅構造の改変の中で排除を受ける可能性が高いでしょう。
これらの戦後の匂いが濃厚な空間が都市の内部にあるというのは、都市の面白味になっているはずですが、クリーンな都市を目指し、また経済効率を求める都市再開発企業や新自由主義者からは排除すべき対象でしょう。
宮下公園・神宮通公園・美竹公園もまた、戦災復興公園です。その経緯ゆえか、そこにも(少なくとも数年前までは)戦後っぽさがあり、野宿者の小屋もありました。そのような貧しかった頃を想起させる「ネガティブ」な風景は一掃したいというのが、渋谷再開発の隠れたテーマだと思います。しかし、それらは、現在に生きる戦後の公共空間の財産です。敗戦という激動と揺らぎの中でこそ実現した人間的な公共性への指向があったわけです。

4、2020東京オリンピック

前述のことは、現在、様々な問題を指摘されながら建設されようとしている国立競技場で立ち退きが強要されている都営霞ヶ丘アパートにも当てはまります。都営霞ヶ丘アパートが1964年の東京オリンピックによって作られたということはよく言われていますが、実はその前の1947年に作られた団地です。その周囲の兵舎や将校会議所にも戦災者や引き揚げ者の方が住んでいました。64年の東京オリンピックは、戦後復興した東京を見せるという動機が働いていたので、開会式などで使われる国立競技場前の霞ヶ丘アパートはその趣旨に反するために慌てて建て替えられました(当初は立ち退き計画があったようですが、住民が一団となって反対して跳ね返しました)。現在の霞ヶ丘アパートに残っている人の多くは、64年以前から住んでいた高齢者たちです。64年は建て替えでしたが、2020年オリンピックに向けては強制移転で更地にするという痕跡すら残さないやり方です。都営住宅という形で表された公共性とそのコミュニティがここでも破壊されようとしているわけです。
64年オリンピックは東京に大改造をもたらしましたが、それは2020年でも同じです。その際のモチーフは、招致の際、国内向けに都が掲げていた「東日本大震災復興」ではもちろんありません。当たり前のことですが、東京のオリンピックで東日本が復興することはありません。基本は、東アジアを中心にする国際都市間の競争で東京が勝つことです。このモチーフと危機感は、国交省の成長戦略会議(注5)や都市再生特別措置法・総合特別区域法などの中で言われてきたことです。そのような中で、東京オリンピックの招致が行われてきたわけです。政府や都の中で2020年オリンピックはアジアの都市の中で東京が優越性を持っていることを示す位置づけになっているはずです。そのために圧倒的な経済力があり超近代的な都市という見栄えを作ることに腐心しています。様々な特区(注6)は、大企業への規制緩和・税制優遇のためのものです。国内外の大企業を東京に呼び込もうとしており、オリンピックも外国人向けの商品展示会やプレゼンテーションに近いものです。再開発はオリンピック決定前から行われていますが、オリンピックの御旗によってより推進されているのは言うまでもありません。都市間競争やオリンピックのために再開発や規制緩和が行われているというよりも、それらを行うために都市間競争の危機感やオリンピックを利用する勢力がいる、と言った方がよいかもしれません。それは、もちろん大手の建設業者や不動産会社です。それらと新自由主義的な政治家たちが結託しているわけです。このような方向性は、東日本の復興に対しては人材の不足、資材の値上げによって、その妨げになるものです。富める者をより富ませることを優先することによって人間間だけでなく地域間の格差も広がるわけです。
現在、東京オリンピックは(国立競技場案の縮小や近隣都市での開催など)綻びを見せていますが、それでもこのような方向性で突っ走っています。
これらの動きは、経済的な価値の中に(偽の)公共的価値を取り込み、経済的価値による一元化を目指しています。それに対して、公共的な価値をきちんと尊重しそれを作りだし、まずは、その経済価値一辺倒の動きに歯止めをかけていくことが必要です。最終的には、公共的な価値の中に経済的ものを位置付けていくことが大事だと思います。宮下公園の裁判は渋谷区が上告したことによって続きますが、これからも、渋谷という街が、公園が、野宿者が、経済的価値と公共的価値がしのぎを削る焦点であることには変わりません。


注1 電通ダイバーシティ・ラボ「LGBT調査2015」http://goo.gl/C5GKCp
注2 立体都市公園の概要についてhttp://goo.gl/96oRFS 都市公園運用指針(第2版平成24年4月 国土交通省都市局)http://goo.gl/ECa5pf
注3 土地をたくさん持っているトップ500社http://goo.gl/uXiwK3
注4 東急は、地下街商業協同組合との合意を地下商店街オープン直前に一方的に破棄し、シブチカ店舗予定150坪の無償譲渡を賃貸に変更するとして押し切った。そのため、東急(東光)ストアのみが予定どおりオープンした。
注5 「日本の成長を実現する上で、まず国を挙げて喫緊に取り組むべきことは、アジア諸都市の台頭による日本の国際競争力の相対的低下への懸念の中、国の成長を牽引するエンジンである世界都市東京をはじめとする大都市について、国の主導により、大都市に関する戦略を明確にし、大都市の再生や成長を促す従前の仕組みを更に発展させ、これまでの既成の考え方にとらわれず規制緩和や金融措置などを講じることにより、民間の資金・活力・アイディアを最大限に引き出して国際競争力を強化することである。その結果、激化する国際都市間、特にアジア間競争に勝ち抜き、世界中から人、モノ、金、情報を呼び込むアジアの拠点、世界のイノベーションセンターとなることを目指す。」(国土交通省成長戦略2010年5月成長戦略会議)
注6 アジアヘッドクォーター特区(渋谷は東急グループ、東京全域は三井不動産が提案)、特定都市再生緊急整備地域(渋谷駅周辺開発に適用)、国家戦略特区(オリンピック特区)、東京発グローバルイノベーション特区

3 件のコメント:

ZZK さんのコメント...

プロ市民がまた再開発の邪魔をしているよ・・・。ホント暇なんだな。再開発阻止して、じゃあ宮下公園どうしようと思うわけ?このままホームレス憩いの場にしておくのか?馬鹿馬鹿しい。

ZZK さんのコメント...
このコメントは投稿者によって削除されました。
ZZK さんのコメント...

いつまでも井の中の蛙でいるんじゃないよ。世界の大都市が更新しまくっている中、東京だけがそういうわけには行かない時代なのよ。シンガポールに行ったことあるのか?邪魔するプロ市民もいずに国主体で街を造っている為、アジアの中では非常に綺麗。インフラも整っている。だから世界から人が集まる。GDPも日本以上。野宿者を保護する義務なんか無い。社会のお荷物を毛嫌ったりはしないが、保護する必要は全くなし。それこそ自業自得でしょ。新施設のほうが、一般市民には余程楽しみだし、今の怖い宮下公園より余程有効だわ。