2010年12月26日日曜日

ナイキジャパンプレスリリース:「『渋谷区宮下公園』の整備計画について」への反論

ナイキ社は10月14日のプレスリリースで、「『宮下公園』の名称はこれまで通り「渋谷区立宮下公園」となります」と発表しました。

また、マスコミに対して「宮下NIKEパーク」と名付ける命名権を区から取得していたが、「当初から公園の活性化の支援が目的だった」(東京新聞)、「公園の活性化が本来の目的で、ネーミングは重視していない。反対派に配慮したわけではない」(共同通信)、「命名権取得は地域貢献の一環で、企業名を出すことにこだわりはなかった。多くの人に公園を利用してもらうために新名称は使わないことにした」(読売新聞)などとコメントしています。

 命名権の協定にも関わらず、名前の変更を行わないとする異例のナイキ社の姿勢から見えてくるものを含め、ナイキプレスリリースの問題点を指摘したいと思います。
ナイキジャパンプレスリリース:「『渋谷区宮下公園』の整備計画について」への反論

【ネーミングライツの放棄?について】

ナイキ社のプレスリリースの中に、『「宮下公園」の名称はこれまで通り「渋谷区立宮下公園」となります』という文が含まれています。 宮下公園におけるスポーツ施設建設計画を規定する契約は、2009年8月に渋谷区とナイキ社との間に締結された「渋谷区立宮下公園ネーミングライツ基本協定書」のみであり、その他のいかなる契約も存在しません。
ネーミングライツについては、協定の4条、10条、11条に定められています。
中でも10条では、「甲(渋谷区)は、本公園で行われるイベントの主催者、本公園内で営業を行う者その他本公園を利用する第三者に対して、特段の支障がない限り、本公園の名称を表示するあらゆる機会に通称名を使用することを義務づけるものとする。」と、非常に強い表現で通称名(「宮下NIKEパーク」)の使用を義務付けています。
また10条の2では「甲は、新聞、雑誌、テレビ等のマスコミが、本公園の名称を表示する場合、通称名を使用させるものとし、通称名以外の名称若しくは本公園名を使用する者に対して、乙と協議の上、特段の支障がない限り、甲の名前で訂正を求めるものとする。」とあり、「宮下NIKEパーク」という名前の使用を、渋谷区がマスコミに指導するという記載がされています。

 これらからわかるように、「宮下NIKEパーク」という名前の使用は協定の根幹であり、大前提です。その名称を使わないというような決定は、ナイキ社もしくは渋谷区が独断で決められるようなものではないにもかかわらず、今回のプレスリリースにあたりナイキ社は、渋谷区側に事前の相談を行っていません。 協定の14条は協定解除に関する事項を定めています。「甲および乙は、本協定の各条項に違反したときは(中略)お互いに本協定を解除できるものとする」との規定ですが、ネーミングライツ協定の根幹である公園名称についての協定を真っ向から否定するナイキ社の背信行為に対しては、協定解除もしくは協定の根本的な見直しが行われてしかるべきでしょう。

そもそもネーミングライツ協定は、公正な手続きの元に締結されたものでなく、スポーツ施設建設のために、なかばデッチ上げられるようにして結ばれたものです。推進派渋谷区議は、宮下公園の再開発においてスポーツ施設建設が前提としてあったことや、計画を実現するための手段として「ネーミングライツなら応用できると思った」との証言をしています.。(※1)契約解除にも至るべき状況であるにもかかわらず行わないのは、この事実を裏付けるものです。


【ナイキが地域コミュニティへの貢献(活性化)を目的としてうたっていることについて】

ナイキ社はリリースの中で、整備工事への支援という言葉を使っています。
しかし、整備工事の施主はナイキ社であり、公園設計をアトリエワンに依頼したのも渋谷区ではなく、ナイキ社です。たとえば、公園課として、整備工事費の中身を把握していません、と都市環境委員会で述べています。(※2)整備工事の主体は、ナイキ社であり、それを支援と呼ぶのはまやかしにすぎません。

また、ナイキ社の計画が選定された2008年3月から1年以上公表されなかったことは、ナイキ社の要求する「守秘義務のため」であったと渋谷区は前述の委員会の中で述べています。今回の通称名の不使用という協定に対する根幹的な違反すら何ら区に相談がない(※3)ことからも、この計画が区に対するナイキ社優位の中で進められていることが伺われます。

ナイキ社による2008年2月の提案・要望書が情報公開されています。(※4)
それによると、公園の表玄関というべき大階段の上に、「ナイキアートビルボード」と称して一辺10mを超える巨大自社看板を3面に渡って取り付ける予定でした。
ナイキイベントスペースを設けるなど、ナイキ社の目的がスポーツパークと広告の相乗効果による自社ブランドの宣伝であったことは明らかです。
また、公園で他者の実践するイベントに対する承認・否認の権利をいただきたい、との提案(※5)からは、宮下公園の実質的な私物化すら狙っていたと言えるでしょう。
このような提案を行う企業が、地域貢献を謳うのは、ごまかしにすぎないと私たちは考えます。

「渋谷区民が楽しめる緑の空間を提供し」とありますが、宮下公園は現在でも「緑の空間」であり、ナイキ社による改造で緑が増える予定はありません。むしろ、スケートボード場や広場において、地面が舗装されることになりますが、これは、ヒートアイランド化を懸念する渋谷区の姿勢とすら相反するものです。リリースの中で言及されている「渋谷駅中心地区まちづくり指針2010(案)」(※6)においても、宮下公園は緑と水の南北軸の重要なスポットであり、スポーツパークにする理由などはありません。


【公園内生活者/野宿者に対する対応について】

プレスリリースの中でナイキ社は公園内生活者/野宿者について、一見詳細で丁寧に見える説明をしていますが、これは実態を理解して書かれたものではありません。
まず、「フットサル場の建設時に渋谷区の福祉支援事業によってその数は減少し」というのは事実誤認です。宮下公園の公園内生活者が減少したのは、地域生活移行支援事業(※7)という東京都と23区の共同事業のためです。

ナイキリリースには、渋谷区が「ホームレス対策」を行っているとの記載がありますが、渋谷区がしてきたことは基本的に「追い出し」です。2009年10月には、公園課と生活保護の運用を行う生活福祉課が合同で、宮下公園で小屋を構える野宿者向けに生活相談の窓口を設け、生活保護を中心に相談を行いました。しかし、この相談窓口が対象としたのは、宮下公園で小屋を構え、そこで暮らす野宿する人々のみで、宮下公園以外の場所で野宿する人々はもとより、宮下公園で暮らしていても一定期間そこで小屋・テントを構えていない人々は、対象外でした。相談窓口が開かれたのはわずか1週間。生活福祉課とは別の部屋を使って隠れるように開かれました。本来ならば、無差別平等の運用が義務付けられている生活保護を、ナイキ化工事のために、恣意的に運用したのです。

 2010年2月、公園で暮らす野宿する人々のもとに公園課の職員が再び現れ、宮下公園に隣接する地域に野宿者のための仮小屋を設置すると、そこへの移動を迫りました。行政自身が野宿者のための小屋を自身で準備するのは前代未聞のことであり、ここにもナイキとの並々ならぬ関係がうかがわれます。公園課は野宿する人々に対し、移動を強要する執拗な説得を繰り返し、その結果、隣接する地域に移った方もいます。しかしその方たちに対して、仮小屋を作った以外にはなんらの生活支援の施策は行われていません。

9月15日早朝の公園全面フェンス封鎖に際して、渋谷区は、公園内で生活している野宿者を暴力的にフェンス外に排除しました。また、公園内に残されていた小屋についても、立ち入りを禁止した上で、10月1日に何らの法的手続きすら取らずに本人の意向に反して一軒を無断で撤去しました。

これら一連の硬軟取り混ぜた渋谷区の挙動は、ナイキと渋谷区による宮下公園のナイキ化整備工事を進めるためのものであり、公園で生活する人たちことを第一に考えたものではありません。



ナイキ社のプレスリリースは以上のように、様々な欺瞞に満ちたものであり、この段階でこのような発表ができるナイキ社の姿勢に、私たちはあらためて憤りを覚えます。 密室での取引によって強引にすすめられてきたナイキパーク計画は、公園を利用する人々、渋谷区民、そして公共という概念に対する幾重もの背信によって成り立っています。渋谷区長および一部議員とナイキ社のエゴによって公共のスペースである宮下公園がナイキ社に売り渡されようとしている今、このような計画に対して歯止めをかけ、公園を人々の手にとりもどすことが何より必要であることをあらためて訴えたいと思います。

ナイキ社は、宮下公園のナイキ化計画の不当性を認め、地域貢献や支援などの美名に隠れて、自社宣伝の場への公共空間の改造工事をやめて下さい。私たちはこれからも、この計画とプロセスの様々な問題を指摘し、抵抗を続けていきます。

【注】
(※1)宮下公園 TOKYO/SHIBUYA(後編)OURPLANET-TV
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/352

(※2)09年6月18日の都市環境委員会議事ー(日置土木部長)これは提案事業者側の積算といいますか、考え方でございますので、それぞれが工事費が幾らである、あるいは関係費用が幾らであるということについては、私どもとして、中身に立ち入る考えはございません。

(※3)11月28日渋谷区公園課によると「なんの相談もなかったので、現在質問中。回答はまだない。」とのこと。

(※4)2008年2月6日ナイキ社「プロジェクトに関する弊社からのご提案・要望事項について」)http://www.ourplanet-tv.org/files/nike2008.pdf

(※5)投資に対し拝受させて頂く効果として、前記のとおり、再生された公園に対する弊社ブランドの維持がございます。そのため、宮下公園の弊社イベント活動への貸出しをご検討いただくとともに、弊社に対し、他者の実施するイベントに対する内容の事前確認と承認・否認の権利をいただけますと幸いです。

(※6)「渋谷駅中心地区まちづくり指針2010(案)」http://www.shibuya-kyogikai.jp/pdf/22th/3.pdf

(※7)東京都内の主要公園の生活者のテントや小屋を減らすことを目的に、2004年から行われた事業。月3000円の賃貸料で民間アパートに2年間の居住を支援するという内容だった。同時に対象公園の多くで新規にテントをつくることを規制した。宮下公園では2006年に行われた。アパート移行後の生活支援の不足、アパートの契約が更新がない定期借家契約だった、などの様々な問題点が指摘されている。

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