2020年、新型コロナウイルスパンデミックという未曽有の事態の中、東京都は、山谷の玉姫職安を窓口とした東京都特別就労対策事業(輪番)を2か月間休止。事業を利用して就労する多くの野宿者、失業者にとってこれは文字通り死活問題で、私たちは何度も東京都に赴き、事業を所管する産業労働局に対し休業補償や安全対策を踏まえた上での事業再開を訴えた。
そして昨年に引き続き、来年度の事業について私たちの要求をたたきつけるべく私たちは再び東京都に交渉を申し入れた。交渉には山谷からも加勢していただき総勢20名で臨んだ。
担当職員として現れたのは産業労働局就業推進課長ニシカワ、シマネ、コンドウの3名。これは昨年来続いていることだが、交渉をするのに、冒頭から「敷地の中に入るな」と私たちを公道上に追いやるところから始まった。やり取りの内容はこのあと詳述するが、東京都はこれ以外にも、簡単なデータさえも教えない、文書での回答を拒否する(最終的に撤回)、労働者の発言のたびに嘲笑するなど、終始、目に余る侮蔑的な態度を繰り返した。
私たちは、負けずに道路にどっかりと座り込み、最後まで要望を強く訴えた。
交渉は事前に送付した要望及び質問書に沿って進められた。
まず、1つ目の項目について東京都は「休業補償をしろというのはどういう意味だかわからない」「我々はその立場にない」「仕事を止めていたのは事実だが、我々としては働いていただいた分お支払するというのが事業の趣旨なので、やらなかった分を休業補償するという考えはない」と回答した。
東京都の判断で仕事を止め、働く機会をなくしておいて、働いた分しか払いませんとは何だ!皆の怒りが沸き起こりさっそく紛糾する。
4月7日から6月7日まで事業を休止していた分の予算は、バスを増便するなどのコロナ対策に使われたという。労働者に還元されてないではないか。
では、2020年度は予定の51,000人区の雇用を実施できたのか。今年度の就労者数は何人だったのか。怒りを押さえながら、客観的な数字を訪ねると、「申し上げられない」「お答えできない」の一点張り。これは交渉以前の問題だ。
しまいには「特就事業の原資は都民の皆さまの税金。予算が余ったからといって、こちらの予算をこちらへというわけにはいかない」とわけのわからないことを言い出す。
そう、おっしゃる通り税金でやっている事業だからこそ、それが妥当か否かを判断するためにきちんと情報を開示する必要がある。それを拒むとは何事か。そのうえ、その理屈であれば労働者を雇用するための予算をバスの増便に使っていることこそおかしいではないか。
さらに、改めて文書で回答するよう申し添えるとこれも拒否。
要望・質問の1つめからこの調子で、事業を利用する野宿者・日雇い労働者をまるで一個の人間として認めない不誠実な態度に先が思いやられる。
2つ目の項目について。特別就労対策事業の仕事は公園、港湾、道路の3種類がある。冒頭の33,440人というのは、公園と港湾の人区数であることが知らされた。年間の総人区数がこの数字まで減らされたわけではないことにやや安堵したのもつかの間、東京都曰く「公園と港湾の分は2割ほど減っている」という。2割減った主な理由は8月の休業。賃金単価は変わらず、8月に事業を実施しない分、他の月で補う考えもないという。また、道路がその分多く出るのかという質問には「入札に影響を与えるので」と回答を避けた。
昨年、私たちは、この事業による賃金は失業者にとって貴重な収入源であることを伝えたはず。8月の1カ月間、事業を休止することによる働いている人への影響は試算・検討しなかったのか。これは項目の3つ目にあたるが、これに対しては「労働者の安全を考えてのことだ」と回答した。
確かに、コロナ対策も熱中症対策も必要なことで、労働者の安全のためと言えば聞こえはいいが、そのために仕事を減らされ、何の補償もなければ飢えて死ぬ。東京都は、要するに自分たちの責任の範囲内で人が死ななければよいとしか考えていないのだ。
そして4つ目の項目についても、環境省による暑さ指数WBGTを持ち出してきたが、そうであれば、雨天と同じくその指数を超えた日だけ休業するというやり方もできるはず。木陰の多い公園などの現場を増やすことについても、「調整できなかった」「難しい」と繰り返すばかり。1か月、収入をなくしてしまう労働者の深刻さに対して、あまりにもやる気のない東京都の姿勢が露わになった。
話がここまで来たところで、東京都が私たちに「今年度、番号の回りが非常に早かった。それはなぜなのか知りたい」と唐突に質問してきた。番号の回りが早いというのは、事業を利用する労働者が少なかったということを意味する。何か嫌味のつもりだったのかもしれないが、皆からは口々に今の特別就労対策事業の労働環境の悪さが語られた。
例えば、昨年、事業が止められたり仕事が減らされたりした結果、やっていけなくなり生活保護を受けた人がいる。また、監督からの暴言・パワハラなどで行けなくなった人がいる。休憩時間は減らされ、作業はきつくなり、ついていけなくなった人がいる。東京都は先ほど来、労働者の安全を配慮すると言っているが、状況はそれに逆行しているのだ。
交渉に臨んだ人の中からも、監督から「お前もう来るな」と言われたという声があがると、ニシカワは「そういう話は聞いたことがない」と目を丸くした。一方でコンドウは「監督がちゃんと見ていないから、もっとちゃんと仕事させろとは言っているんだ」とシマネに耳打ちしていた。
話題は自ずと7つ目の項目に入る。労働者の埋もれた声を聞く回路を作るべきなのではないか。これについては「工夫させていただきます」「苦情があるたびに業者には伝えます」
「まず実態を把握するように努めたいと思います」とやや前向きな回答があった。
続いて6つ目の項目、就業後の現地解散を認めてほしいという要望について東京都は「この事業は山谷の労働者を対象にしているからそれはできない」と回答した。山谷の労働者だって仕事が終わったら山谷に帰るか、どこかへ寄り道をするか、自由なはずだ。それに馬場職安、深川職安を閉鎖してしまったいま、山谷以外の地域から就労している労働者がたくさんいることは周知の事実。15時までの労働時間を超えて拘束されるのはおかしい。
就業後の現地解散は、皆にとって、最も身近で切実な問題だけにひと際たくさんの声があがった。
怒りの声に押されて「我々は今日一日誰が最後まで仕事をされたのか把握しなければならない」と苦し紛れに東京都は言ったが、賃金を支払い、手帳を返してもらう時点でそれはできる。そもそもそんなこと業務時間内にやるべきだ。まるで理由になっていない。
逆に、どうしても送迎バスを強制するのであれば15時に山谷に帰着して解放しなければおかしい。15時を超えて指揮命令下に置かれ拘束される根拠がない。と追及すると、今度は「拘束ではない」という。自由なのか?ならバスには乗らないぞ!まったく支離滅裂だ。
民間の就労においても、通勤、例えば集合時間の強制などをめぐっては争議や訴訟も起こっている。引き続き追及が必要だ。
最後に、要望及び質問書にはなかったが、特別就労対策事業の予算規模について訪ねた。現在、予算要求されている額は例年と同じ12億程度。バス代が例年より多くかかるわけだから、人区数が減らされることになる。それはおかしいと改めて強く抗議した。人件費から削るなんてもってのほかだ。東京都は予算の維持ではなく人区数の維持をするべきだ。コロナで失業者があふれている今、維持ではなく増員しなければならないくらいではないか。
最後に、改めて文書での回答を要求し、逃げるように去っていく東京都の3人の背中に「また来るぞ!」「仕事増やせ!」と皆して思い思いの言葉を投げつけ、交渉を終えた。
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